【コラム】沖縄とデジタルアーカイブ〜宮本聖二

宮本聖二 立教大学大学院 教授 / Yahoo!ニュース プロデューサー

独自の歴史と文化を持つ沖縄。1879年の琉球処分までは琉球王国という海洋交易国家として、その後は徹底した日本への同化政策が進められた末に県民の四人に一人の命が失われた沖縄戦が起きました。戦争を起点にした米軍占領と基地拡大・強化と島ぐるみ闘争・復帰運動、そして現在の普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題など激動の歴史は今も動き続けています。

一方、その独自の文化と自然は、年間1000万人を超す観光客を国内外から引き寄せるようになりました。それだけに王国時代から現代に至るまでの資料や文献、映像などは極めて貴重です。昨秋、火災で焼失した首里城正殿などの建造物は、復元に携わった人々が、必要な資料群が沖縄戦で失われていたにもかかわらず、懸命に設計に必要な文献などを集めて1992年に復活させたのでした。

沖縄の「うたとおどり」や「祭祀」。島々や集落ごとに個性と魅力溢れるものが無数と言っていいほどあります。古典音楽、民謡、神歌、新民謡、沖縄ポップス。その中でも民謡は、同じ曲でも地域や人によって歌い方や歌詞が異なったりすることがあります。

そこでデジタルアーカイブが重要になります 。

沖縄の今と未来を考えるためには、過去の文書、記録、映像や写真などの様々な資料がデジタルアーカイブ化され、アクセスして皆で共有することが大切です。

魅力に溢れた沖縄の芸能も、その時間軸と幅広いジャンルで網羅したアーカイブ化がなされれば、楽しむ、後進の方が学ぶ、研究するなどの色々な活用ができます。

では、現状はどうなっているでしょう。整備が進んでいる分野もあれば、活用の可能性があるのにできていないジャンルも多くあります。

映像の分野では、沖縄戦や戦後の映像が「沖縄県公文書館」などではかなり整備されています。https://www.archives.pref.okinawa.jp/search_materials/image

また、市井の復帰前後の映像は真喜屋さんたち「沖縄アーカイブ研究所」の先進的な営みで収集・公開が進んでいます。公文書に関しては、やはり「沖縄県公文書館」が琉球政府文書のデジタルアーカイブ化を積極的に進めています。https://www3.archives.pref.okinawa.jp/GRI/

最初の公選主席の屋良朝苗氏の残したメモや日記もアーカイブ化されました。

屋良朝苗日誌

一方で、芸能の分野ではうた・おどりなどの音源・映像などに課題があると思っています。民謡では「しまじま(集落)」ごとに古くから歌が生まれてきたのですが、歌い手がいなくなったり、「工工四」などの譜に残されないまま消えていくものも少なくありません。戦後盛んに録音された沖縄のレコードレーベルの新民謡などはどうでしょうか。制作を停止したレコードレーベルの音源はどこにあるのでしょうか。もちろん、音楽や舞踊などは著作権や著作隣接権の問題はありますが、当事者が残す方策を取れないなら誰かがそのための仕組みを整備しないと失われていきます。まずは、デジタル化しメタデータをつける、その上で公開を考えれば良いと思います。今の技術ならば、課金の仕組みを組み込むことも容易にできます。

そして、文化財。那覇市歴史博物館のデジタルミュージアムなどの取り組みはかなり進んでいると言えます。

http://www.rekishi-archive.city.naha.okinawa.jp/digital-museum

首里城の火災で王国時代の絵画、漆器、紅型などの染織など所蔵1500点のうちおよそ400点が焼失したと伝えられています。管理にあたる「美ら島財団」では、それら収蔵品の画像データを保管しています。そうであるなら、できるだけ早く画像と詳細な記述とともにデジタルアーカイブ化して公開することが求められます。首里城再建の後押しにもなるはずです。

 

宮本聖二(立教大学大学院 教授 / Yahoo!ニュース プロデューサー)

 

 

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