【FILMS】母と子の読書

8ミリ映画の真骨頂は、やはり家族の何気ない日常の記録にある。本作はまさにそういう映像でありながら、まるで短編映画のような美しい時間を切り取っている。

No. 0315-00
タイトル:読書する母と娘
撮影者:遠藤保雄(Yasuo Endo)

撮影メディア : 8mm Film/Color
本編時間: 7m17s
撮影時期 : 1958年9月15日
主なロケ地 : 自宅 (沖縄県宜野湾市)
スキャン方式 : Frame by Frame

 

撮影した遠藤さんは、ニシムイの芸術家村にあった「ぴょぴょ会」のメンバーであり、絵心があるだけでなく、職業的にも技術者として機械をいじることに秀でていた。撮影後に、編集を加えていることも考えれば、この映像が偶然に生れたものではないことは想像にかたくない。

それにしても的確な構図、柔らかい光り、見えない風が揺らすカーテン、すべてがやわらかく温かい。そして60年の時を超えて守られてきた、フィルムの鮮やかな色彩。美しさの要素として、奥さんがきれいというのももちろんあるのだが、これら魅力的な登場人物と風景が、実にユニークで愛らしい展開を見せ、一応起承転結も見てとれる。だが、もっとも大きな魅力は何も起こらない、細やかな日常をあきさせずに見せるところなのだ。。

そしてもっとも8ミリ的な特徴として、第3の登場人物がしっかりと存在していることを忘れては行けない。母と娘を見つめる視線は確実に父親のそれであり、僕らが感じる微笑ましさや多幸感は、撮影者である父(夫)が、目の前の母(妻)と娘を見ながら感じていたものと同質のものであろう。観客もまた父親のまなざしを感じずにはいられない。さらにつけくわえれば、今見ている映像は、撮影者が60年前にファインダー越しに見ていた風景とほぼ同じであり、私たちは撮影者に同化してこの映像を見ている。映像の不思議を実感する。

(文:真喜屋力)

▲光、色、構図、何だかどれを見ても美しい映像。

 

▲意表をついて別々に読書する母娘。見事な相似形。

 

▲後半の急展開。さりげなく映る扇風機がカッコよい。

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