1954年に沖縄で公演されたブロードウェイの演劇『八月十五夜の茶屋』(Tea House of the August Moon)の、宣伝スチールのようなものが、突如持ち込まれました。
『八月十五夜の茶屋』とは?
沖縄公演の二年後に封切られた1956年の映画版が有名です。大スターのマーロン・ブランドが沖縄の青年”サキニ”を演じるなど珍妙な作品ですが、原作はヴァーン・J・スナイダーの小説で、ブロードウェーで舞台化され好評を得た。
物語は第二次世界大戦終了直後の沖縄が舞台で、占領政策に苦労する米軍人と、したたかな沖縄の人々とのやり取りを描いたコメディ。
この芝居については上原栄子著『辻の花』の戦後のエピソードにも登場している。琉米親善のイベントとして企画され、米軍人の演劇経験者や、沖縄の芸能家、素人もまじえて練習し、米軍総司令部の近い基地内の劇場で公演されたようだ。
入手の経緯
写真を提供してくださったのは沖縄芝居の大伸座の大宜見しょう子さん。大伸座は往年の大スター、大宜見小太郎の作った一座。このアルバムは、その大宜見小太郎の妹の夫にあたる神谷義武さんが保存していて、数年前に小太郎さんの娘のしょう子さんに託されたという。
ネットを見る限りでは、これらの写真を使った当時のパンフレットなどはあるようだが、今回のものはすべて紙焼きの写真で解像度の高いもの。サイズはだいたい「六つ切り」で、横20cm、縦26cmくらいと大きい。保存状態も非常に良い。
余白の部分にクレジットもプリントされているところから、宣伝用のプレス資料や、劇場の前に貼り出すために用意されたものではないだろうか。写真は人物のポートレートが14枚。舞台の様子や記念スナップ風の写真16枚、そして公演に協力した料亭松の下と料亭那覇の写真、あと公演ポスターの写真が1枚収められている。
その他の資料
ネット上を検索すると「REMEMBERING OKINAWA HISTORY」のサイトに、当時のパンフレットが掲載され、PDFで読むことができる。
写真もだいたい被っているが、今回見つかった写真の中で足りないものもいくつかわかる。それは琉球舞踊から組踊、芝居模糊なす名優の宮城能造や、琉球民謡の嘉手苅仁誠など大御所のものだ。ひょっとしたら、ご本人のものに寄贈されている可能性もある。
これのポートレートの余白には、下記のクレジットがプリントされていた。
Photo by TONY V. PATAWARANPublicity SectionRycom Special Services, APO3311954
この公演と米国、そして東京公演を比較したYONAHA Shoko,PhDの論考がネット上にあって興味深い。特に沖縄での公演がもっとも沖縄文化を正確に描いているという指摘が、なるほど確かにと思わされた。
» パンフレットに見るニューヨーク、沖縄、東京で上演されたThe Teahouse of the August Moon
映画のデジタル化と再上映も期待したいが、同時に現代の沖縄キャストで、再び公演をしてくれないものかと思ったりする。演出あh宮本亜門かなあ…。そこから逆にブロードウェーとか…夢が膨らみます。
今後について
これだけクリアな写真はなかなか見たことがないが、意外と量産して配っていたかも知れないので、その希少性はよくわからない。とりあえずすべてデジタルスキャンも終えたので、きちんとしたアーカイブに寄贈するように計らいたいと思います。
文:真喜屋力
凄いお宝ですね!
米国在住の者です。我が家にはこの映画版のロビーカードがあります。
初めてこの映画を見た時は「沖縄の人はこれを観たら怒るよ!」と思う、いい加減な出来に驚きましたが、1950年代当時に沖縄でこの舞台が有った、それももっと沖縄文化に忠実な構成だったと聞き、私もその感じで再演して欲しいと思いました。貴重な情報をどうも有難うございました。