【コラム】あの日あの瞬間の沖縄に静かにトリップしていた 新垣睦美

あなたの音楽は映像的だね。ある映画監督にそう言われ、すでに頭の中には、ぼんやりした色や形や動き、時には結構具体的な色彩や質感や映像があることに気がついたのが数年前。無意識にアンテナに引っかかった日々の風景や環境音を自分の音楽に取り込んでみた。自分がぼんやり思い描いていたものが少しづつ形を見せてきて、生き物のように育ち始めた。

私は主に沖縄の伝統的な音楽を軸に創作や演奏をしているので、歌いながら脳裏に見えるものは、想像力で作り上げた、生々しい昔の沖縄の景色。リアルな息づかいを感じる沖縄の昔の映像を自分の音楽と合わせてみたいなと思っていた丁度その折、偶然、真喜屋力さんのインタビュー記事に出くわした。沖縄のアーカイブ映像を生きたアーカイブとしてどんどん活用して欲しい、というような内容だった。近いうち連絡を取ろうと決めた。程なくして、何と、真喜屋さんが編集したアーカイブ映像に対して、KgK(ギター、ベース、ドラム)と歌三線で即興で演奏するという企画にお誘いを頂いた。自分の引きの強さに驚き、大ガッツポーズ。試行錯誤しながらも、なかなかの面白い企画だったと思う。今後も継続的に関わっていけたら嬉しいなと思っている。

真喜屋さんに、自分のソロの音楽にもアーカイブ映像を取り入れたいと申し出たところ、快諾を頂いた。撮影者の熱い気持ちをも映し出しているような、人間くさい映像たちに強く惹きつけられた。映像を見て、頭の中で音が鳴った。スペースをゆったりとって、曲と即興の間のような音が合うなと思った。映像の中に活き活きと生きている人々の波動にそっと寄り添うような音。いつか作品にしたいなと思っていた矢先、大きなチャンスが来た。今年5月末にドイツはフランクフルトにて、日本映画祭NIPPON CONNECTION2019での演奏の機会を得た。大好きなウチナーの風景が遠くヨーロッパの地で映し出され、観客の皆さんが映像に入り込んで、あの日あの瞬間の沖縄に静かにトリップしていた。リアルでしなやかな沖縄の姿は、力強く人々の心に届いたと思う。ライブは好評を頂き、9月末にはオランダのロッテルダムにて日本映画祭CAMERA JAPAN2019での演奏の機会を得た。次はどんな反応があるか、とても楽しみだ。

貴重な映像データが朽ちてしまう前にデジタル化することは、大変大きな意味があると思う。保存継承が確かになり、広く共有出来るようになる。また、素材として扱いやすくなることで、撮影者の想いや意図に敬意を持ちつつ、それぞれが映像に対して感じたことを盛り込み、加工や再構築をするという取り組みへの可能性も広がる。撮影者やその映像に写り込んだ人々は、それを大喜びしていると思う。私自身も、アーカイブ映像や音源の中の世界にトリップしインスピレーションをもらいながら、この時代の今の瞬間に感じたことを表現していきたいと思う。

文:新垣睦美(ミュージシャン)

 

▲NIPPON CONNECTION2019(フランクフルト)でのステージ。背後のスクリーンに、屋冨祖正弘氏の映像が流れている。

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